部屋に入るなり、夫は抱きついてきた。
「な、なに?どうしたの、よっちゃん」
あたしは、わけがわからず、彼の腕をふりほどこうとした。
あたしより、背が低い夫は、蝉のようにあたしにしがみつくような形で震えていた。

「な、なおこ・・・」
あたしは、ベッドに押し倒された。
義男は、すかさず唇を奪ってきた。いつになく、激しい口づけ。
かつてないほど、彼は欲情しているようだ。
「いったい、何があったというの?」
「・・・・」
「そんなに荒っぽくしないで。痛いよ」
「なおこ、おまえ・・・」
「うん?」
あたしは胸元に顔をうずめている夫を見た。
「おまえ、山本とできてんのか?」
「は?」
夫の部下の山本真一のことを言っているのだ。
ばれたか・・・
あたしは、凍りついたように、天井の照明を見ていた。
「おれは、見たんだ。ホテルの駐車場からおまえらが出てくるのを」
やっぱり・・・。今日のことだった。
どうしようか?
「見間違いよ。そんなわけないでしょ?」
空々しい、言い訳をしてしまった、あたし。
「うそつけ!」
がばっと、起き上がる夫。真っ赤な顔をして激怒しているように見えた。
あたしは、冷静さを装った。
「だったら、なんなの?」
「ふん、開き直るのか。おまえってやつは」
あたしは、もう覚悟はできていた。
山本さんに、誘われたときにはすでにね。
「よっちゃんが、山本さんを家に連れてきたからいけないのよ」
「わけのわからんことを言うな」
「あなたが、山本さんをそそのかしたんでしょ?」
「・・・」
「おれの家内としてみないかって、言ったんでしょ?」
「しらん」
「山本さんから聞いたのよ」
「それは・・・」
「だから、彼、あたしを誘ったのよ。あたしは、乗ってやったの。その話に」

どうも、夫の義男は、性的なコンプレックスが強く、背の高い女が好きで、あたしに求婚したのもそういう嗜好からだと、いつだったかカミングアウトしたことがあった。
あたしは別段気にしてはいなかったものの、夫のコンプレックスは身長だけではなく、体格や性器に及んでいることを知るにつけ、なんとも嫌な気分にさせられた。
そういう卑屈な態度が、夫自身をことさら、矮小に見せることを本人が気づいていないからだ。
だからというわけではないが、まったく正反対の山本さんに、あたしは惹かれた。
背はあたしより数センチは高く、学生時代は山岳部に在籍していただけあって、がっしりしていて、どこか愁いを帯びた表情は、歳のわりに老成したところを醸し出していた。

で、夫は、どういういきさつでか、部下の山本さんに焚きつけて、あたしと関係をもたせようとしたのだ。
あたしは、夫に満足していなかった。
夫は冗談のつもりでも、あたしは本気になった。
独身の山本さんは、山男らしく、さっぱりしていて、セックスも上手だった。
ホテルには二度行った。
二度目で、夫に見つかってしまったが・・・

「あなた、つけてたんでしょ?」
「偶然だ」
「ほんとぉ?山本さんとあたしがどんなセックスをしてたか知りたい?」
夫の目がきらりと輝きを見せた。
「ぜひ知りたいね」
いやらしい笑みを浮かべている。
「じゃあ、脱ぎなさいよ。同じことをしてあげる」

あたしも、刺激されていたのだ。
こういうシチュエーションもそそられるものだ。
あたしたちにとって、セックスは遊びだった。
結婚してからずっとそうだった。
だから避妊している。子供は要らない。

小柄な夫が、すっぱだかでベッドに横たわった。
山本さんに比べて、ずいぶん貧相な体格だ。
おなかも、ぽっこり出て、お乳もふくらんでいる。
つまり、小太りなのだ。
ペニスはそれでも、毛の中からピンと上を向いて勃起していた。
山本さんの木彫りのような荒々しい姿ではなく、ロケットのように先が細い。
太さもコンドームがしわになっちゃうほどのものだった。
あたしは、その洗っていない夫のペニスを口に含んだ。
こうすると大きさの違いがよくわかる。
こめかみが痛くなるほど口をひろげないと歯が当たる山本さんの性器と、口をすぼめてやれる夫の性器の違いが。
舌も、夫のなら縦横に舐めまわせる。
フェラチオはいくぶん小さいほうが、楽なのだ。
ぺちょ、ぺちょ
唾をたっぷりぬりつけて、亀頭を舌でころがす。
そして吸引して、亀頭を膨らませる。
「あふぅ。うまいじゃないか」
「そう?あなたのは、しゃぶりやすいわ」
「ヤツのは大きかったか?」
「ま、ね」
「どれくらいだ」
「二倍ぐらい」適当に言ってやった。
「ふうん」
自虐的な夫は、そう言われるほうが好きなのだろう。
かなり、夫のものは硬く反り返ってきた。
そこそこの大きさはあるので、標準的なものなのだろうけど、山本さんのを知ると、見劣りするのは否めない。
「お口で、逝く?それとも、入れたい?」
そんなことをあたしから尋ねたこともない言葉をかけてやった。
「入れたいな」
「どんな風に?」
「上になれよ」
騎乗位を所望した。山本さんと同じだ。
がっつり硬くなった夫のペニスに手を添えて、膣口に導いた。
もう、あたしもずぶ濡れだった。おつゆが多いと、山本さんにも指摘されていた。
ぐっちょりと、先端があたしを割り込んだ。
「あううん」
潤っているとはいえ、まだ準備がととのっていなかったようだ。
ゆっくりと、夫の顔を見ながら、奥まで腰を落とした。
背筋がぴんと張るような緊張感が走った。
山本さんのは、なかなか全部、入らなかった。
バックで突かれたときに、全部入ったと彼に告げられた。
その圧力がすごくて、あたしは半狂乱の声を上げていたとも言われた。
あんなに、乱れたことはなかった。

それに比べて、夫のものはおとなしくあたしに包まれている。
動いてくれても、恐怖感はない。
奥に当たっているけれど、突き破られそうな感じはしない。
ちょうどいいと言えば、ちょうどいいのだ。
あたしも動いた。
そうでないと気持ちが良くないから。
子宮が降りてきていると、夫が言う。
あたしにはわからないが、夫がしきりに腰を浮かせて、奥を探ろうとする。
「あはあ」
あたしも、たまらなくなって、よく当たるように腰を沈める。
「なおこ、なおこぉ!」
早いフィニッシュである。
そうとう、夫は妄想にさいなまれていたようだ。
あたしのなかで、逝ってしまった。
あたしも夫の小さな体に倒れ込んで、口を吸って、クリを押し付けて余韻を楽しんだ。
ぽろりと小さくなった夫のペニスが抜け落ちた。

山本さんと関係するようになってから、あたしは低容量ピルを服用している。
だから、中に出されてもいいのだけれど。

あたしは、回復しそうにない夫をベッドに残したまま、バスルームに消えた。

山本さんとの関係は、やっぱり続くと思う。