大浴場が覗けるって?
女子の?

修学旅行の男子の考えることはだいたいこんなことだ。

親友の裕一とぼくは、旅館の見取り図から推測して、この部屋なら見えるはずだと計算した。

なにしろ、学年一の「デキる」男、中野裕一の作戦である。
ぼくがまず、ベストな部屋の連中にわたりをつけた。
五組の後藤らの部屋、456号室だった。
バスの中であらかたシナリオを作ったぼくたちは、旅館についた途端に行動に出た。

「おい後藤って。こっちこっち」
「え?なに?藤井」
トイレに行こうとしていた五組の後藤祥雄を呼び止めた。
ヤツとは同じ科学部のメンバーだった。

「おまえの部屋さ、メシの後で行っていいかい」
「はぁ?ゲームでもするってか?」
「ゲームしてもいいけど、おまえらの部屋って456号だろ」
「そうだよ」
「見えるんだよ」
「何が」
「女湯」
「うそ!」
「声がでかい」
「ほんと?」
「ああ、中野が計算したんだ。あの部屋ならばっちりだ」
「うわ。委員長のおっぱい見れるな」
「なんだよ。おまえ、中島のが見たいのかよ」
中島幸子は、生徒会委員長なのだった。
たしかに胸はでかいけど。

約束の時間に、456号室に中野と向かった。
なんかおかしな雰囲気である。
騒がしい。
格子戸のなかにたくさんのスリッパが見えた。
「なんじゃこりゃ」
男どもがわいわい集まっている。
「よっ。中野センセのお出でだぜ」とひょうきん者で通っている三組の牛尾が言う。
「なんだよ、この人数」
ぼくは、怪訝な顔で言った。
「見えるんだろ?お前らの企てではよ」と牛尾泰造。
「後藤がしゃべったんだろ」とぼくが気色ばんだ。
後藤はすまないといった表情で手を合わせた。
「いいじゃん。俺たちにもあやかりたいからね」と山本淳がニタニタ笑っている。

総勢十三人の男どもが集まった勘定になる。
一組から五組まで、まんべんなく顔が揃っていた。
「さてと」
中野が、バードウォッチング用の単眼地上望遠鏡を三脚に組む。
「おおっ。本格的だね」だれかが感嘆の声をあげた。
カールツァイスの立派なものだった。
ぼくも、ニコンの双眼鏡を持ってきた。
「ここかぁ?」と後藤
「ああ、もうちょっと右だな」
カーテンを開けて、窓に張り付く男たち。
「あ、見えるぜ」
「小さいけど、見えるな」
女性の裸身が植栽の間から見え隠れしている。
中野が望遠鏡をセッティングして覗く。
「うん、うん。ばっちりだ」
「おい、見せろよ」と牛尾
奪うように、牛尾が覗く。
「おわぁ・・・・あれ?女子じゃねえな」
「どれ」と太っちょの川口真一が覗く。
ぼくも双眼鏡に目を当てた。
「おばさん・・だよね。どうみても」
「おかしいな。女子の風呂の時間だぞ。今だったら」
「だよ。さっき、安達とか、加藤とか風呂に行くってすれ違ったよな」
山本が首を傾げて言った。

ぼくの双眼鏡にははっきりと「ふなっしー」のようなおばさんの裸体が拡大されて見えていた。

翌日になって委員長の中島さんに訊いたら、
「女子のお風呂は、露天大浴場じゃなくって、「宝の湯」っていう地下一階のお風呂よ」
と答えてくれた。
「なぁんだ、そうだったのかぁ」
「なんで?あ、藤井くん、覗こうと思ってたの?」
「ううん。そんなこと」
「露天大浴場はね、外から丸見えだって、添乗員さんが言ってて、先生たちもそれはいかんからということで、急に「宝の湯」に変更になったのよ。知らなかった?」
「そうなんだ。別に関係ねぇけどさ」
「ふふふ」
意味深に笑う、委員長の顔は可愛かった。
「この胸が見たかったな・・・」
制服の前を突き破りそうになっている大きな胸がそこにあった。

ぼくも、後藤と同じことを思っていたのだった。

青春やねぇ・・・