空き缶を叩くような軽やかなカウベルのパーカッション。
ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース「ハート・アンド・ソウル」を聞きながらあたしは、ごきげんだった。

ルイスのあごは特徴的で、銭形のとっつぁんみたいだ。

アルバム「Sports」の彼はそんなあごをしてプールバーの仲間を背にして笑ってる。
Sports

一速で引っ張って、二速、三速、四速、五速とリズミカルにシフトアップしていく。
あたしの真っ赤なシビックは北陸道に入り、そのまま北上していた。

ひもろぎ(神籬)という言葉が妙に頭に残っている。
神々を祭るために、神々が降臨する場所らしい。
大きな木であったり、岩であったりするそうだ。

上智の先生である、中林雄二(なかばやしゆうじ)が教えてくれた。
もともと京都大学の教授だったが、昨年の秋にあっちに招聘(しょうへい)されたそうだ。
あたしは、かれの実家がある福井県の敦賀に向かっているのだった。

「うちに来ないか。今度の土日は実家に帰っているんだ」
「あら、そうなの?」
そっけない返事をしたが、内心は飛び上がるくらいにうれしかったのだ。
雄二があたしに電話をくれるなんて東京に行ってしまってから初めてじゃないかしら。

「ひもろぎに案内してやるよ」
そう彼は言った。
「ひもろぎ?」
「よりしろだよ。神様が降りる場所だな」
「へえ。ゆうちゃんの専門だね」
「ま、ね」

あたしは、理系の人間だったが、雄二のような人文学者の話にも興味があった。
彼は不思議な雰囲気のある人物で、悠久の過去から突然、あたしの前に現れたタイムスリッパーではないかとさえ錯覚する。
ふたりとも、酒好きで、飲み歩くようになってから親しくなり、奈良や吉野、熊野方面にハイキングに行ったものだった。
一人なら、単なる山歩きであっても、彼と一緒だと、景色ががぜん違って見えるのだ。
普通の小山だと思っていたらそれは「古墳」であったり、なにやら人工のものだと雄二が説明してくれる。
酒舟石(さかふないし)も彼に教えてもらった。
何に使われたのかは今もって不明なのだけれど。

敦賀のインターを降りて、市内を行くと海沿いに彼の実家がある。
ここの名物はヤマトタカハシの「とろろ昆布」だった。

車を道沿いに停めて、助手席の手提げを持って降りると、道路の向こう側から手を振る雄二の姿が見えた。
「やあ、なおこ」
「ゆうちゃん。来たよっ!」
あたしは左右をみて道路を横切り、彼のところへ走った。


「遠かったろ?ま、なおこは運転が好きだから気にならんか」
同い年だけど、年上の兄のようなまなざしで、あたしを見るの。
「高速、すいてたから」
「後藤さんとは、うまくやってるのかい」
結婚を前提として付き合っていた今の旦那のことを聞かれた。
「まあ、ぼちぼち」
「うまくいってないな?でなきゃ、おれの誘いに、ノコノコ来やしないよな」
「そんなことないよぉ。ゆうちゃんの顔が見たいからさぁ」
あたしは甘えた声を出していたのかもしれない。
ほんと、ネコのように小ずるいところがあるあたしだった。

夫になるはずの後藤祥雄(さちお)とは、付き合いだして一年以上にはなるが、倦怠期を迎えていた。
婚約をはっきりしてくれないのだ。
自分たちにはまだ早いんじゃないかって、いつもそういう。

あたしも、もうちょっと遊びたいとも思っていた。
男と遊ぶことが楽しくって仕方がないっていう年頃だったのだと思う。
そして、雄二という今までに付き合った男性とはまったく異なる不思議な存在に惹かれていた。

雄二の家は旧家で、寛永年間にはすでにこの場所に祖先が住んでいたことがわかっているという。
現在の家は明治時代に建て替えられたものだが土蔵は江戸期のものだということだ。
県議会議員も務めた彼の祖父が、若い頃に画家を目指していたこともあって、書画骨董がその土蔵に詰まっているそうだ。
雄二のお母さんに茶菓のもてなしを受け、そういった家の話に花が咲いた。
お母さんはあたしが雄二の花嫁候補と早合点しているふしがあった。
「泊まっていくだろ?」
「え?いいの?」
「当然、そのつもりで準備してきたんじゃないのかい?」
「まあ、一日分の着替えは持ってきたけど」
「寝巻きくらいは貸してやるよ。お袋のだけど」
「いいわよ。ありがと」
「あした、ひもろぎに案内してやるよ。加茂神社っていうんだ」
「かも?京都にもあるよ」
「関係はあるだろうね。おれも詳しいことは知らないのよ」
「専門でしょ?」
「専門でもいろいろあるの」
※福井県小浜市加茂神社上社のこと


田んぼ
陽は西に傾き、夕方になり、早いお風呂をもらって、縁側で一息ついたころだった。
「あるものばかりで申し訳ないけれど」とお母さんが前置きした料理は、ご馳走だった。
「おいしそーっ」あたしは思わず叫んだよ。
「海のもんばかりで、すまんね」と雄二
「あたし、お魚が好きで。お酒も」
「だろ?酒はいっぱい用意した」
雄二がにっこり笑って、福寿杯(ふくじゅはい)の一升瓶を差し出し、どんとお膳に置いた。
地元の蔵元「敦賀酒造」の逸品である。
「お父さんは?」
「おやじはね、入院してんだ」
「あら、お悪いの?」
「どうも胃潰瘍みたいなんだ。内視鏡の結果からは悪いものはなかったって言うんだけど、潰瘍がひどくってね」
「そうなの」
「ま、友遠方より来るだ、飲んで、食べてくれよ。な、母さん」
「そうよ。なおこさん、いっぱい召し上がってね」
「はい、いただきますっ!」
ひらめ、鯛、はまちのお刺身が大皿に盛られ、旅館の料理みたいだった。
「それね、はまちじゃなくってね、つばすなんだよ」
「わかんないわぁ」
「はまちの一歩前ってとこかね」
と雄二が説明してくれる。

「そうか、後藤さん、プロポーズしてくれないか・・・」
お酒も進み、二人とも赤い顔をして、差し向かいである。
「だめよねぇ。あたしも、煮え切らないから」
「なおこから、言えよ」
「言ったわよ」
「ふうん」
あたしと、
祥雄そして雄二の接点はスキーである。
去年の一月のスキーツアーで、バスの席が
祥雄と雄二が一緒になったのね。
祥雄のほうがずっとあたしたちより年上で、三人で意気投合してしまったわけ。
祥雄とはすでに関係があったあたしは、雄二とは距離を置いていたの。
そのうち、雄二にもあたしたち二人の関係があきらかになり、雄二は東京に行ってしまったってわけ。

その夜、彼のお母さんは勘違いのまま、気を利かせたのか布団を二人分、同じ部屋に敷いてしまった。
あたしは、酔ったまま、そのありさまをみて、
「これって・・・」
絶句していた。
雄二も、
「離そうか?」
「そういう問題じゃなくって」
「ま、いいか」
「いいわけないでしょ?」
あたしは、まだ理性が勝っていた。
「ほかに部屋がないしな」
「こんな広いのに?」
「片付いていないんだよ」
「しかたないな・・・」そういって、あたしはにっこり笑って返した。
もう、あたしは雄二となんかあっても、かまやしないと思い始めていた。
あたしは、前にも言ったかもしれないが、下半身のガードが緩い。
かといって、不特定多数の男と無差別に関係する破廉恥女ではない。
断じてない。
許せ・・・祥雄さん・・・

電灯を消しても、お酒が入っていても、寝られやしない。
却って、目が冴える。
年頃の男女が同じ部屋で寝ているということは、そういうことなのだ。
もう、苦しいし、早く楽になりたい。
「ね」
「うん?」
「起きてるの?」
「ああ」
「ゆうちゃん、あたしを抱きたい?」単刀直入とはこのことだった。
「そうだな。抱きたいな」
「じゃ、抱いて」
「いいのか?」
「だって、このままじゃ、切ないじゃない!」
ちょっと声が大きくなったあたし。
彼の手がにゅうっと暗闇を伸びてきてあたしの布団をめくった。
そして、あたしの上にかぶさってくる。
熱い口づけが交わされた。
はむ・・・
静かな夜で、二人の粘液質な音がやけに響いた。
あたしの寝巻きの袷を雄二の震える手が開こうとする。
ノーブラの胸があらわになり、立った乳首が雄二の方に向く。
ショーツを脱がされ、学者然としたいつもの雄二からは想像できない巧みさで指が秘処を走る。
祥雄のやり方は泰然としていたが、雄二はせっかちな感じだった。
やはり経験が浅いのだろう。
しばらく離れて、雄二が裸になったようだった。
暗がりでよくわからないが、股間にそそり立ったペニスを見た。
祥雄より小ぶりだったが、エンタシス(中が太い、古代の柱)風の一物だった。
「舐めようか」
「うん」
彼の頭髪が内腿に触れたかと思うと、いきなり、クリ付近の環境が頬張られた。
がぶっ・・・
「ああん、いや、そこ」
ねちっこく、学者は攻め立てる。
「ここは、何度も後藤さんに舐めさせたんだよな」
そんなひどいことを言う。
「いや、いや」
「そして、おれにさせるんだ・・・なんて、なおこは、いやらしいんだ」
雄二が言葉でいじめる。

さすが、識者は攻め方が違った。
「違うったら・・・」
あたしは否定するけれど、なんの意味も持たなかった。
「入れてやる」
うん、うんとあたしはうなずいていたと思う。
じゅく・・・濡れ濡れのあたしの秘穴は彼を軽々収めた。
しっかり嵌っている感じがした。
「おおう、なおこ、気持ちいいよ。締まるよ」
「いい、あたしもいいよ。ゆうちゃん」
お酒が入っているからか、長持ちしている。
普通、勃起しなくって中折れすることが多いのだけれど、雄二はしっかりしていた。
ずぼっ、ずぼっと抜き差しされ、あそこがじんじんしびれて気持ちよかった。
「あは、あはっ、そんな、すごいっ」
「なおこ、なおこぉ」
中に出されたら困るなと思いながら、実は、期待していた。
あたしは、やっぱり、とんでもない女だと思う。
「出るよ、出すぞ。いいか?」
「いいよ。ほんとは、あぶないけど」
「そっか」
じゅぶ、じゅぶ、じゅぶ・・・
リズミカルに雄二の腰が動き、徐々に早まる。
腰を両手でつかまれ、突き込まれた。
がつっという感じで、膣の奥まで硬いものが差し込まれる。
やっぱり、雄二は童貞じゃないと思えた。
浩二なんかは中学生だったし、駒井君だって、織田さんだってやっぱり童貞だったからこんな余裕ある攻め方はできてなかった。
一度登り詰めたあたしは、冷静になってしまったみたい。
そんなことを考えながら、雄二の表情を追っていた。
彼もなかなか逝かない。
あそこが痛痒くなってくる。
「もうすぐだからな・・・」
「うん」
「うあああ、出るっ」
雄二があごを上げて、反り返るように腰を入れ、とうとう果てた。
どくん、どくん・・
一回り太くなったかのような彼が、あたしの中で心臓みたいに脈を打つ。
「やっちまったよ。なおこ」
そう言いながらあたしに覆いかぶさり、唇を求めてきた。
む・・
舌を絡め、あたしも余韻を楽しんでいた。
「ごめんな、中に出しちゃって」
「謝らないで。あたし、いいって言ったじゃない」
「でも、後藤さんに悪いよ」
「その時はその時よ。心配しないで」
あたしは雄二の頬をゆびでなぞってあげた。
「なおこ・・・」
「ゆうちゃん。ああ」
裸のまま、二人は疲労して寝てしまった。
朝方にまた求められたが、あたしは、拒否し、お口でしてあげた。

朝食のとき、お母さんが、
「よく寝られた?なおこさん」
と意味深長な笑顔で訊かれどぎまぎした。

日曜日の午前中に小浜(おばま)の「ひもろぎ」まで、雄二の案内で向かったのは言うまでもない。
そして途中の食堂で昼を食べて、彼を家に送り、たくさんのおみやげをお母さんから頂いて帰路についたのだった。
ひもろぎ

妊娠しなかったのは幸いで、何事も無く遅まきながら翌年に今の旦那からプロポーズをされ、あたしたちは夏に結婚した。
雄二も喜んで式に出席してくれたよ。

なんと、あたしとあんなことをしていたときに雄二ったら東京で将来を誓った女性がいたというのだった。
男もあきれたもんだと思ったよ。