俺は、理容「マロニエ」のおかみさんに性の手ほどきを受けてからというもの、セックスしたさに女友達をそそのかすようになってしまった。
自然と「同い年」の女の子に興味が向っていったのは、幸いだったのかもしれない。

中学に上がったばかりのころ、クラスに清水美香(みか)という、すこしぽっちゃりしたおとなしい子が隣の席になった。
その体格のせいか、胸も中一にしては大きい方で、歩くとゆさゆさと揺れるくらいだった。
「やわらかそうだな。触りたいな」
いつもそんなことを思いながら、チラチラみていた。
たぶん、美香は俺の視線に気づいていたと思う。
目が合って、彼女が顔を赤らめて下を向いてしまったことが何度かあった。

俺らのクラスは、五、六人ずつの班に分かれて勉強したり、掃除を分担したりしていた。
そして、美香も俺も同じ班だったのだ。
給食も一緒に食べるので、少しずつ彼女と話す機会が増えてくるのだった。

「清水はさぁ、休みの日とか何してんの」
ある日の昼、俺がそんなことを訊いたら。
「えっと、レコード聞いてるか、テレビ見てる」
そう、小さな声で言った。
「ふうん。俺さ、テレビのコマーシャルばっかしをカセットテープにとって集めてんねんで」
「へぇ・・・」
呆れたという顔で俺を見た。
実際、俺はコマーシャルソングが好きで、父親にカセットテレコを「英語の授業で使うんや」とかなんとか言って買ってもらい、コマーシャルばっかり録音していた。
テレビの前に陣取って、タイミングをはかって、回りで音を立てさせないように家人にお願いしながらの録音となった。
父親は「あほなことを」と言いながらも、俺のすることにはそっとしていてくれた。

「いっぱい聞けてぇ、いっぱいしゃべれるぅ♪って知ってる?」
「あ、知ってる。駅前留学のうさぎ」
「キーンキホームへいらっしゃい♪ってのは?」
「お正月によくかかってたわ。お姫さんのきぐるみの出てくるやつやな」
けっこう、俺たちは話が合った。

春の体育祭で、ジェンカをやったとき、運良く、清水美香の後ろにつけた。
俺はその場の雰囲気で、あの大きな胸をうしろから抱くように一瞬、つかんだ。
「えっ」という表情で美香は振り向いたが、俺は構わず、大胆に揉むようしてみた。
身を捩(よじ)って逃げようとする美香、でもジェンカである。
跳んだりしてるうちに、乳房の重みが手のひらにずっしりと感ぜられた。
「すげっ」
思わず俺は口に出した。
しかし、至福の時間は、長くはなかった。
ジェンカはほどなく終わり、みな散り散りになってしまった。
美香の姿も人垣に消えてしまっていた。
俺は激しく勃起していて、前かがみにならないと、短パンが妙に盛り上がって、人に気づかれる気がした。

夏、女子も薄着になり、ブラジャーの肩紐が気になる時期になった。
当然、美香の後ろ姿はもとより、ブラウスの前のボタンを弾き飛ばしそうに突き上げている双乳に、いやでも目が行く。
美香は前より、恥じらいを見せなくなったように思った。
むしろ、胸が大きいことに自信を持っているかのように振る舞った。
蝉が鳴き出す頃、美香の背中に点描のごとく汗が浮き、乳製品のような甘い香りを漂わせる。
白い肌の下には甘い練乳でも詰まっているかのようだった。

頬に貼り付いた髪の数本や、赤い唇の間から除く真珠のような歯並(はなみ)にぞくっとする毎日だった。
その頃、俺は、ほとんど毎日、自慰にふけるようになっていた。
「マロニエ」のおかみさんにしてもらえるのは月曜だけだったから、普段は自分でするしかないのだ。

「おかず」は、おかみさんから美香に変遷していった。
美香の小さな口に咥えてもらうことを想像しながら、激しくこすって、射精した。
そしてあの豊かにふくれ上がった胸の谷間に、彼女の唾でいっぱいに濡らしてもらって、我が分身を挟んでもらうのだ。
一日に何度も射精するので、消耗が激しく、もはや勢い良く飛び出すことはなくなり、いつもだらだらと尿道から手の甲に流れを作った。

秋も深まった、夕方、みんな帰ってしまった教室に俺はひとり残っていた。
文化祭の写真の整理をしていたのだった。
焼き増しの欄をつくって、写真を模造紙に貼って、欲しい人に書き込んでもらうのだ。
写真係を買って出た俺の残務だからしかたがない。
美香の写真も数枚あった。
写真係という役得(やくどく)で、わざと彼女のアップを撮ったのだ。
俺は、椅子に座って、教室に一人ということを、いいことにズボンをずらして勃起を取り出した。
「ああ、美香・・・」
そうやって、美香の笑顔を見ながらしごいた。
そこに、美香がふらりと入ってきたのだ。
「藤堂くん、まだ残ってたん」
後ろから声を掛けられて凍りついた。
「あ」
美香も事の異常さに気づいたようだった。
極めてまずい状況だった・・・
ズボンがひざから落ちてしまって、下半身はむき出しで、隆々と勃起させていたのだから。
「ごめん・・」
そう言って、美香は立ち去ろうとした。
「清水」
俺はとっさに、美香の制服のベストのすそをつかんだ。
「やめ・・・」
「清水。俺、おまえが」
何を言っても無駄なのはわかっていた。

「それ、あたしよね」
美香は写真のことを言っているのだった。
「ああ、おまえでオナってた。すまん」
「最低・・・藤堂君。ジェンカのときだって・・・」
覚えていたんだ、美香は。
もう闇が迫ってきていて、表情はよくわからなかったが、怒っているに違いなかった。
美香とは、もうかなり打ち解けた会話もできるようになっていたのに。
俺は手を離した。
ペニスはだらしなくしぼんでしまっていた。

「しまいなよ・・・それ」
美香が低い声で言った。
俺はのろのろと、ズボンを上げ、パンツにヤツを収めた。
美香はそれをじっと見ていた。
気まずい時間が過ぎていった。
「誰にも言わないでくれるか」
情けない声で俺は美香に頼んでいた。
「言わないよ。言えるわけないでしょ?そんな恥ずかしいこと」
カチャカチャとベルトのバックルを締めながら、俺は彼女の怒気を含んだ言葉を聞いていた。
なんだか、姉に叱られている弟みたいな気分だった。

「あたしの写真、あげるよ。だから・・・そういうことは・・・お家でしてね」
ちょっと引きつったように、にっこり笑ってそう言ってくれたのは意外だった。
「いいのか?清水」
「いいよ。藤堂君のこと・・・嫌いじゃないから」
やった・・・内心、小躍りする俺だった。

「一緒に帰ろうよ。俺、写真の仕事、あしたにするから」
「うん」

もう日も落ちた校庭の端を、校門に向かって二人で歩いていた。
「なあ、清水」
「はい?」
「男が、ああいうことをするって知ってた?」
「まぁ・・・ね」
「清水はしないのかよ」
「しないよ。そんなこと聞く?ふつう」
「ご、ごめん」
「あたし、びっくりしちゃった。心臓が止まるかと思ったのよ。ホント」
「そりゃ、俺だって同じだよ」
「だよねぇ」
はははと二人は笑った。

畑の中の道はまっくらで、五十メートルほど先の十字路にぽつんと街灯が点いていた。

その光が届くか届かないかの距離で、俺は思い切って美香の肩をつかんで、口づけをした。
美香は抵抗しなかった。
目をつぶって、口を軽くすぼめて受けてくれた。
おかみさんとするような「大人のキス」はせず、唇を触れ合わせるだけの幼いものだった。
俺はすぐに顔を離した。
「いいの?」
「何が?」
「舌とか・・・入れないの」
これまた、意外な言葉を美香の口から聞いた。
「お前、そういうの知ってんの?」
「みんな知ってるでしょ?ふつう」
最後に「ふつう」と言うのが美香の口癖だった。
「じゃ、それしようか」
「うん」
俺は、遠慮なく顔を傾けて、唇を合わせ、舌を美香の口に差し入れた。
「あむ・・・」
美香は、大胆にも、俺の口の中に舌を入れてこね回してきた。
給食のカレーの味がほのかにしたのは、お互い様だった。
「ふう・・・」
息が苦しくなって、どちらかともなく離れた。
「どうだった?」
俺が尋ねた。
「すっごく、興奮した」
蛍光灯の光を反射して、キラキラした目をして美香が言った。
潤んでいるようだった。
「濡れてんだろ。あそこ」
俺は、とうとう下品な言葉を吐いたが・・・
「うん、ちょっと」
うつむいて、足をもじもじしている。
「俺も、めっちゃ立ってる」
そう言って、ズボンのふくらみを見せた。
「わっ。すごっ」
「触ってみる?」
「えっ・・・それは・・・」
「ほら」
こわごわ、美香の手が伸びる。
ファスナーの布地の上から、さするように美香が触ってくれた。
「硬いんやね。痛くない?」
「気持ちいいよ。出ちゃうかも」
「出ちゃうって?おしっこ?」
「知らないの?精子」
「あ、そっか。だよね。こうしてると出るの?」
「うん。でもパンツの中で出したらこまるよ」
しばらくさすってくれていた美香だったが、
「お家ですれば?あとは」
と、つれない言葉・・・
そして、十字路から二人は別々の方角に別れたのだった。

いつか、美香を・・・

俺は軽やかに口笛を吹きながら、沈もうとする三日月を見つつ、家路を急いだ。