鉄橋を渡る貨物列車の音が、牛の涎(よだれ)のように長々と続いていた。
空港が近いので、ジェット機が低く頭の上をかすめる。

よどみない神崎川の流れは、あたしたちの部屋からよく見える。
北向きの窓は、対岸の尼崎の空を切り取っていた。

「なおぼん、寒くないか?」
連れの和樹(かずき)がシュラフ(寝袋)の中から声をかけた。
「ううん」
あたしたちは、このおんぼろアパートの住人になって一月(ひとつき)を迎えた。
蒲団もなく、登山で使うシュラフが二人の褥(しとね)だった。
もう十一月も最後の週となってしまった。
暖房もない、この部屋で初めての冬を迎えるのは、いささか不安だった。
寒いと言っては、二人で抱き合い、温めあった。
「こっち、来いよ」
「え?うん」
あたしは、アンニュイな表情を改めて、彼に微笑みかけた。
どうせ今日も仕事はずる休みだ。

「かずき・・・」
「なお・・」
お互い、口を吸い合う濃い接吻を交わした。
昨晩も、激しく求め合った二人。
同棲しだしてから、肉体をむさぼるのが心の隙間を埋める作業のように思えた。
彼は、大阪の大学の修士課程に在籍している院生だった。
あたしも同じ大学にいて、今春、卒業し先に就職したのだった。
気の進まぬ会社での勤務は、慣れも手伝って、怠惰になり、この有り様である。
職場では、極力、目立つことはせず大人しくしていた。
製薬会社の研究スタッフではあったけれど、学部生の、それも女など、雑用係くらいにしか思ってもらえない。
卒業研究の担当教授の勧めでこの会社に応募し、採用されただけのこと。
つまり、同棲を維持するための経済活動として、あたしは奉職しているに過ぎない。
それもこれも、大好きな和樹のためだった。
彼は、優しかった。
そして子供だったあたしの体から秘められた獣性を引き出してくれた。
あたしは、オンナという獣(けもの)が自分に巣食っていることに初めて気付かされた。
男をむさぼる女。
男に抱かれることで、あたしは目覚め、何度も生き返る・・・
精液という毒を体に注ぎ込まれることで、和樹と同じ匂いがあたしの体から分泌されるのだ。
「ああ・・」
和樹の指が、あたしの融けだした秘穴に侵入する。
ぬめりがそこいらに塗り広げられ、冷やりとした。
「おれのが残ってんじゃないか?どろどろやで」
「もう・・・」
昨晩、中に出されたまま、寝てしまったから、そういうこともあるのかもしれない。
生理が終わった後だったので、大好きな和樹の精を受けたかったのだ。
封筒型のシュラフはファスナーを解けば、ダブルベッドくらいには広がる。
その上で、安物の毛布とタオルケットで掛け布団の代わりにしていた。
六畳一間と台所、トイレしかない独房のようなアパート。
それでも二人の城だった。
愛の巣なんていう、クサい言葉が頭をよぎる。
「あうん・・・そこ、いい」
和樹がクリを舌先でつついて起こす。
「クリがボッキしてるで」
恥ずかしいことを言って、あたしの反応を見ようとする和樹だった。
あたしは、彼の股間に右手を伸ばして、熱い塊を探した。
それはすぐに手先に当たり、十分な硬さを示している。
彼が「亀頭」と呼ぶその部分は、ビロウドのようになめらかな感触だった。
あたしは、竿の部分から先端にかけてしごいてやった。
そうすれば気持ちいいと彼が言うから・・・
「仕事、いいのか?」
突然、現実に引き戻すようなことを言う。
「いいのよ、生理休暇をもらってるのよ」
あたしは、でまかせを言った。しかし、嘘ではない。
上司の菊池課長に二、三日生理痛が酷いので休むかもしれない旨を告げてあった。
「和樹こそ、いいの?論文の仕上げでしょ?」
あたしは応酬してやった。
「おれ?もう済んだよ。昨日、酒田さんに提出した」
クリを舐めながら言う。酒田さんとは彼の担当教授であたしも顔を知っている。
修士課程一年目の論文なんてのは、大したこと無いのかもしれない。
「そろそろ、入れようか?穴ちゃんが欲しがってひくひくしてるで」
「和樹ぃ・・・」
あたしは、目で「入れて」と合図を送った。
和樹が、上向きに勃起したペニスをあたしのそこに近づけてくる。
あたしの両足は曲げて左右にあられもなく広げられた。
お尻が浮き上がったところでズブリと一差しに挿入される。
「うあっ」思わず声が出てしまうような圧迫感があった。
和樹の長いペニスは根本まで押し込まれ、二人は完全に密着した。
「ほぉら、全部入ったで」
「うん、来てる」
「奥にあたってるか?」
「当たってるって」
いつも和樹はそう訊くのだ。
また、貨物列車の音が長々と響いてきた。今度は下りの列車のようだった。
その音のリズムに合わせて、和樹の腰が抜き差しを繰り返す。
あたしは漕がれる舟のようだった。
ぎったん、ばったん、背骨がまるまって、まさに小舟のように揺らされた。
寒かったのも、この運動で汗ばんできた。
「どうや、おれの」
「いい、かずきのいい!」
ぐっちゅぐっちゅと恥ずかしい音が狭い室内に響いた。
くぅ・・・
朝ごはんも食べてないので、お腹が鳴る。
「腹減ったな」
「うん。でもあんたのでお腹いっぱい」
「こんなもんでか?口が違うやろ」
「たしかに、下の口がいっぱい」
「上で出したろか?飲むか?」
「うん」
朝の一杯を頂けるということらしい。

和樹はピストンをやめて、立ち上がった。
あたしも半身を起こした。
和樹が、てらてらと愛液で濡れた勇姿をあたしの顔に近づける。
「あ・・む」
高まりを口に含んだ。
あたしの匂いと味がした。
じゅぶ、じゅぼ、じゅぶ、じゅび・・・
彼も高さを合わせて、あたしの頭をつかんで腰を振る。
かつて教えられたように、舌の広い部分で裏スジをこすってやる。
顎(あご)が直にだるくなる。
よだれが、タラリと顎を伝った。
それにしても硬いペニスである。
骨でも入っているんじゃないかと思う。
そう問えば「なおぼんやから、硬くなるんや」と言ってくれる。
男はだれにでも硬くなるわけじゃないと言いたいらしい。
どこまで信じていいのかわからないが、男の生理とはそういうものなのか。
ならば、喜ばなくてはならないな。
あたしは、フェラチオをしながらそんなことを考えていた。
急に和樹の、あたしの頭をつかむ手に力が入って、無理やりペニスを口の中に押し込もうとする。
「ううう、くる・・し」
早いストロークになって、あたしはただ、その動きに口をつぼめるだけだった。
唾液が溢れて、口角からこぼれるのもお構いなしに腰を入れてくる。
「えふっ」
「いくでぇ、受けてや」
ペニスが膨らんだかと思うと、上顎にどっと、圧力を感じ、粘い塊が吹き出した。
「こふっ、えほっ」
「あ、あっ」
びくびくと和樹が痙攣して、急にペニスがしぼみだす。
だらりと、長い肉の棒が口から引き出されて、それに連れて唾液と精液の混じった夥しい白濁液が口から吐出された。
青臭い、苦い味が口に残ったがそれは飲み込んだ。
あたしのお乳がまともに受け、陰部に向かって流れを作っている。
「あ~あ」
「どうや、飲んでくれてもいいのに」
「ちょっとは飲んだよ」
「こぼれてるがな」
「いっぱい出すし・・・飲みきれんかった」
あたしは、恥じらった顔で言った。
彼も、申し訳無さそうな顔で、ハナ紙で始末している。
あたしは裸ん坊で台所に立ち、水で顔を洗い、口をすすいだ。
「ごはんしよ」
「パンしか無いぞ」
「サテン(喫茶店)に行って、モーニング食べよか?」あたしが訊いた。
「そやな、久しぶりに・・・」
あたしたちは、ものも言わずにそそくさと着替えて、部屋を出た。

秋晴れの気持ちのいい朝だった。
あたしは和樹の腕に自分の腕を絡ませ、葉の落ちた銀杏並木の下を歩いた。

こんな生活がいつまでも続いたらいいのにと思った。