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なおぼん草子

なおぼん(横山尚子)が手慰みに書いた小説です。

真珠湾の海底は浅い。
源田実参謀と淵田美津雄少佐は航空魚雷による攻撃の難しさをどうしたものかと考えあぐねていた。
「俺は、雷撃には明るくないんでわからんのだが・・・」
源田参謀が沈痛な面持ちで口を開いた。
「参謀、真珠湾の深さは十数メートルと聞いております」
「やはり、投下時に底に当たるかね」
「魚雷を放つ際の侵入角度を低くすればある程度は克服可能かと」
「水面スレスレでやるか。兵の練度が二ヶ月かそこらで間に合うかね」
「やってみんとわからんでしょうね」
「ふむ・・・」
あたしは、お茶を入れ替えるために、二人の前の湯のみを下げに行った。
「失礼します」
「ああ、横山くん、君は空技廠にいたんだってな。淵田君、横山尚子君は横山子爵様のご令嬢だ」
そう言って、あたしは、淵田少佐に紹介された。
「え?あ、よろしくお願いいたします。横山と申します」
「どうかね、今の話、聞いていたんだろ?」
と参謀が、尋ねる。

あたしは、空技廠で将来、夫になる後藤祥雄技官と水雷に搭載するジャイロの研究をしていたが、真珠湾攻撃が秘密裏に行われるということで、源田参謀に引っ張られて秘書を仰せつかっていた。
あたしと後藤技官はドイツのライプツィヒに官費留学して水雷の研究をしていた経緯があった。
「淵田少佐の言われる訓練を、真珠湾と似たような地形の湾で行えれば、練度が上がるのではないですか?」
「実は私もそう思っていてね、錦江湾が似ていると思っていたんだ」と、淵田少佐。
錦江湾とは桜島のある鹿児島の湾である。
「おお、あそこはいいな・・・」
源田参謀も大きな目をさらに大きくして、乗り出した。
「ハワイらしいですね」
あたしは行ったことがないが、移民を募るポスターで見た景色を思い出していた。
「ただ、それだけでは確度はあがらん。魚雷にもう一工夫必要だと思うんだ」と淵田少佐が続けた。
黒板に立って、少佐が白墨で絵を描いた。
「こういう風に投下された魚雷は一旦、深く潜ります・・・」
「うむ」
「この深さは、投下の角度によりますが、あまり浅く放つと水切りのように跳躍します」
「ほう・・それは、いかんのか?」
「ええ、そうしますと、方向が定まらず、乱れます」
「そうか・・・」
あたしは、
「いいですか?」
「おう、なおぼんは、なんか思いついたか?」
あたしは、尚子という名から、参謀に『なおぼん』と親しみを込めて呼ばれていた。
「ジャイロで水雷の進路を安定化する方法は後藤技官がすでにとりかかっていますので、水平安定板といいますか、そういうものを魚雷の横につけたらどうですか?」
「ここにか?」
少佐が魚雷の略図を指していう。
魚雷には、尾部に垂直と水平に安定板というヒレがすでについている。
あたしは、さらに魚雷の本体の側面に羽根のように板を張り出してつければどうかと提案した。
「いろんな位置があると思うんですけど、あたしは、重心に近い側面に水平に張り出すもので、着水と同時に破損して取れてしまってもいいような構造で取り付けるのがいいかと・・・」
あたしも白墨で取り付け位置を書き加えた。
「うん、そうだな、一つ、空技廠にかけあってみよう。やる価値はあると思う」
淵田少佐は、さっきとは打って変わった明るい表情でそう言ってくれた。
「淵田君、急いで、やってみてくれ」
「はっ」

一週間を待たずに、改良魚雷が出来あがった。
いわゆる「浅沈度魚雷」である。
何種類かの側板をとりつけたものを試すために、江田島の空母赤城の艦載機、九七式艦上攻撃機を使って試行した。
「いけるな、三番目の側板がええな」
赤城の雷撃部隊隊長の村田重治少佐が言う。
あたしも、そこに同席していた。
「着水とほぼ同時に破壊されて、進路が安定するね」
「取り付けも簡単だ」
淵田少佐もご満悦だった。
「すぐに錦江湾で訓練を開始する」
少佐が、下士官に下知した。
この魚雷は九一式航空魚雷改として採用となった。

あたしは、源田参謀に付き添って、とうとう鹿児島まで来た。
もう、錦江湾では爆音がこだましている。
数十機の九七式艦上攻撃機が模擬魚雷を抱えて飛んでいた。
「なおぼん、淵田君に艦攻に乗せてもらえ」
源田参謀が笑って言う。
「え?いいんですか」
「お前の発案の魚雷がどんなか、見てくるのもええだろう」
「うれしいです」
あたしは、小躍りして喜んだ。

湾の中ほどに停泊している赤城に小舟で向かい、大きな航空母艦のラッタルを登っていった。
みんなから『ブーツ』の愛称で、呼ばれている村田重治少佐が、あたしに飛行服を貸してくれた。
村田少佐は、
「あんたが考えてくれた魚雷のヒレのおかげで、瀬戸内でやった実験では山本長官の水深十二メートル以内の目標をやってのけることができたで」
と、白い歯を見せて笑った。
同い年の彼は、終始、気さくにあたしに接してくれた。
ちょっといい男である。

飛行甲板に出て、村田少佐と一緒に淵田少佐の前に進んだ。
もう、九七式艦上攻撃機は準備万端整っているようだ。
「おう、なおぼん。来たな。乗れ!」
淵田少佐が艦攻の翼の上に立ってあたしを呼ばわった。
「はいっ」
あたしは、艦攻に足をかけて、登っていった。
三座なので、村田さんが前、淵田さんが真ん中、あたしが後ろに収まる。
二人の少佐が白いマフラーをして、ゴーグルを下ろした。
「いいか?」と手で合図する。
「はい」頷くあたし。
赤城の甲板は秋風が強く寒かったがよく晴れて、桜島の噴煙がたなびいている。
風防が、甲板員によって閉じられた。

ぐっと、後ろに引っ張られるような感じで艦攻が動き出した。
あたしたちは、軽々と秋空に舞い上がった。
はじめての空・・・
どこまでも青かった。
「どうや?絶景やろ」
関西弁の淵田少佐が訊く。
「はいっ。最高です!」
「ここから大きく円を描いて、標的に向かって一直線に進入する。村田君は雷撃の神様と呼ばれてるんやで」
「はいっ」
艦攻の発動機の音がことのほか大きく、淵田少佐の声もとぎれとぎれにしか聞こえない。
九七式艦上攻撃機
(九七式艦上攻撃機三号Wikipediaより)
急に高度が下がって、お腹の中がひっくり返るような気持ちがした。
「うあっ」
「ようそろぉ」操縦士の村田少佐が雷撃の照準を合わせる声がした。
「うっく」あたしは重力に耐えるので必死だった。外を見ると海面スレスレだった。
「よおっしゃぁ。投下!」
カツンと、金属の鳴るおとがして、一瞬、ふわりと機体が浮いた。
そしてそのまま、上昇に転じる。
また、体が重い。
「命中!」
淵田少佐の大きな声が聞こえた。
「え?」
「見たか?今の」
「ちょっと、目をつぶってましたぁ」
「なんや、ええとこやったのに。なあブーツよ。ほな、帰るで」
「はあい」

数分後、あたしたちは着艦フックの衝撃に耐えながら、空母「赤城」の甲板にいた。

なおぼんの妄想でした。

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