化学工場に勤務していた時、正確には化学会社の研究員だった頃の話。
試作などは研究員が、自身で行うのね。
部下が一人いたから、手伝ってももらえたけど、基本、一人で製造するの。
だいたい、100~250リットルの製造釜で試験製造するのよ。
小さいけど、ボイラー室から蒸気を送ってもらって、加熱するなどは本番の製造釜と全く同じ。

原料も数十キロ単位なので、ふつうの女の力ではちょっとしんどい。
あたしは、ワンゲルで二十キロ程度の荷物を担いでいたし、身長も165センチはあるので、ドラム缶一個程度はコツを掴んで動かせた。

部下の男の子のほうがヤワだったしね。
あたしがやらないと、どうにもしようがない。

パレット単位の原料になると、フォークリフトが必要なので、製造部の男の子に頼んで出してもらうの。
そうでなけりゃ、パレットによじ登って、三段積みのてっぺんまで上がって、ドラポン(ドラムポンプ)で小さい缶に小分けするのよ。
※ドラポンは、灯油のポンプの大きいやつと思ってください。
高いよぉ。
山登りやっててよかったわ。
安全靴も登山靴に似てるしね。
ヘルメットがちょっとぶかぶかで合わなかったけど。
ドラムレンチていう重たい、フタを開ける道具も持って上がらないといけないから、結構大変なのよ。

いつだったか、部下の男の子と、大泣きしたことがあった。
悲しくもないのに・・・・

25%安水(アンモニア水のこと)を原料タンクから20リットルのポリタンクに抜き取る必要があったのね。
酸性のものを中和したかったのよ。
男の子が慣れなかったのか、蛇口から思いっきりこぼしたのよ。
頭をどつかれたような強い衝撃でね、臭いなんて最初はわからなかった。
そのあとに、目やら鼻やらが痛くって、涙はどとうのごとく流れて・・・
彼も、泣いてんのよ。
あたしは目をつぶってバルブをとにかく閉めて、なんとかしようと必死だった。
そのうち声を上げて泣いちゃった。
「わ~ん」
工場長が騒ぎと臭いをかぎつけて、助けてくれたけど。
「なにやってんだ、おまえら!」
とにかく地下水を撒いて、安水を薄めて、顔にもどばどばかけられて。

男も泣く、安水地獄でした。
工場長も泣いてたし。