恭子から電話があった。
「なおぼん、ひま?」
「ヒマなことあるかいな」
幸い、会社は休みやけど。パートなんで。

「あたしもう、更年期の副作用で、ほんまつらいねん」
しゃがれた声で恭子が続ける。
タバコで声がつぶれてんやろか?
「更年期の副作用?お薬か?なに飲んでんの?」
あたしも、経験済みだから、そのつらさはわかる。
「飲み薬はあかんかって、お医者にデポ剤の注射をしてもろてんねん」
「プリモジアンか?」
「そうそう、そんな名前」
プリモジアン・デポー剤は筋肉注射で一月に一回程度行なうものだ。
この薬は男性ホルモンのアンドロゲンと卵胞ホルモンの合剤だ。
つまり、恭子は更年期障害のつらさから、ホルモン治療を医師の監督下、行なっているということだ。

「で、どうなん?しんどいの」
「しんどないけど、アレが・・・」
「あれって?」
「おめこしたなんねん」
「はぁ?」
「そやから、セックスしたなんねん」
「したらええがな」
「あたし一人もんやし・・・」
そうやった、だんなと十年ほど前に別れよったんや。
どうも男性ホルモンのせいで、性欲が亢進して、声も男みたいに低くなってるようだった。

「彼氏のひとりくらいおるやろ?」
「おらん」
「セフレもか?」
「おらんもん」
出会い系を勧めたことがあったけど、汚い男につかまって「二度といやや」と言うてたな。
「レズのお相手は、いややで」
「あたしもや」
「ほなら、あたしに何の用やな」
「だれか紹介して」
「うそ・・」
「ほんまに、お願い。あんたやったらええ人知ってるやろ?」
そう来たか・・・
「まあ、紹介せんでもないけどぉ。こんな昼の日中(ひなか)に、おばはんの相手してくれる人はおらんで」
「そうかぁ」
「若い子でもええか?」
あたしは北川敦史の顔が浮かんだ。
高校生のセフレだ。
「若い子って、二十代?そんなんおるの?」
「ううん。高校生や」
「うわ・・・そら、ちょっと若すぎるなぁ」
「ちゃんと仕込んだあるから、大丈夫や」
「ケーサツ沙汰にならへん?」
「だまっとったらわからへんわ。あたしなんか、いっつもあの子としてるで」
「ほんまに、なおぼんは好きモンやなぁ」
「ほっといて!いくの、いかへんの?」
「いくぅ。紹介してぇ」

話は決まった。
あたしは、敦史のケータイにかけた。
最近、あいつもスマホを持つようになったらしい。
ただ、友達がいないとか言うてた。
「あ、あっちゃん?」
「おばちゃん、なんやぁ?」
「今、学校か?」
「帰るとこ」
「よかったぁ。あんたな、あたしの友達の相手したってくれへん?」
「あいて?」
「おめこしたってほしいねん」
単刀直入である。
「わわわ!」
驚いているところがまだまだ子供やな。
「ええけど・・・」
「なんも、取って食うわけやない。やさしいおばちゃんやで。あたしより二つほど若いし」
「どこへ行ったらええの?」
「あたしのとこに、とりあえず」
「わかった」
そうしてケータイは切れた。

ほどなくして、自転車の停まる音がして、敦史が到着した。
「こんちわ~」
「ようおこし。ごめんねぇ、無理ゆうてから」
「ううん、楽しみやわ。おれなんかでええんかな」
「ええの、ええの。若い子にいっぱいしてもらいたいんやて。ボランティアと思ってしたげて」
「了解ですぅ」
「ほな、出かけよか」
「遠いの?」
「向島(むかいじま)や」
「ホテル?」
「ううん、恭子さんて言うんやけど、その人のマンションで」
「終わったらどうしよ?」
「電話して。迎えにいったるから」

車で府道69号を北上して、向島ニュータウンに入る。
すぐに、荒川恭子のマンションに着いた。
「ここや」
彼女はすぐに出た。
「うわ、早かったんやね」
「こんちわ」
ぺこりとあっちゃんがお辞儀をする。
「この子が北川敦史君、十七歳、もうすぐ十八やんな?」
「うん」
「かっわいい子やねぇ。ジャニーズ系や」
「そやろ?あそこもすごいよ」
「楽しみぃ。入ってぇ」
「あたしは、ここで」
「そうお?」と、恭子。
「ほな、あっちゃん、きばってや」
あたしは、彼の肩をポンと叩いた。
「了解ですっ」

あたしは、ふたりを残して、車に戻った。
あまり長いこと駐車してると違反を取られるしね。

さあ、あの二人、どんなセックスをするのかしら?
想像すると、あたしも歩きにくくなった。