湯船に浸かって、一日の疲れを癒やした。
「ほんと、疲れたなぁ」
ディズニーランドの人混みで、立錐の余地もない中、祥雄にしがみついていた一日を振り返るあたしだった。

祥雄が、
「入るよ」
と言って、バスルームのドアを開けてきた。
もう、ビンビンに勃たせちゃって・・・
この人は疲れを知らないのだろうか?
あたしは、もう今晩は、勘弁してって感じなのに。
彼は、そのままシャワーの栓をひねり、勢い良くお湯を出しながら、体を濡らしている。
あたしは普段、眼鏡を掛けているのだけれど、お風呂には外して入るので、ぼんやりとしかわからないが、黒々とした勃起だけはしっかり見えた。

金精様(こんせいさま)というものが各地にあると、いつか新聞の記事で読んだことがあり、それは男性器をかたどった神様で子孫繁栄とか五穀豊穣を願って、祠に祭ったり、しめ縄で飾ったりするそうだ。
彼のそれは、まさにあの記事の写真にあった朱塗りの金精様そっくりだった。
頭の部分といい、くびれた部分と言い、目鼻のない神だった。

「いいかい?」
「え?」
「入るよ」
あたしは、ぼうっとしていたらしい。
体をよけて、彼の入るスペースを湯船に作った。
祥雄は大きいから、あたしなんか子供のような体で、お湯の中で持ち上げられ、彼の膝の上に乗せられてしまった。
「ゆきこ・・・」
そう言って、口唇を奪われた。
あむ・・・
ひとしきり、挨拶のようなくちづけを交わし、お互いに見つめ合った。
祥雄の目は、優しい。
あたしにない、深い色を湛えた瞳。
「さちおさん・・・」
あまり名を呼ばないあたしだったが、そう呼ぶのがここではふさわしいと思った。
陰部に彼の硬い分身が当たる。
あたしは、ことさら自分を押し付けて、快感を得ようとしていた。
それに気づいた祥雄は、あたしの腰を持ち上げて、すべらせるように結合を促した。
にゅるり・・・
潤ったあたしは、彼の大きな柱を難なく呑み込んだ。
体の中に一本、筋が通った感じがした。
「きついね、ゆきこのここ」
「そう?あたしも感じるよ」
「ああ、締まるよ」
「締めてるの・・・」
湯船が波立ち、あたしたちは揺れた。
はあっ、はっ・・・
疲れているはずなのに、あたしは、力が沸き起こった。
祥雄が突き上げてくる。
ぐっ・・・あくっ・・いっ・・
祥雄の舌が乳頭を突付き、口唇で挟まれる。
「やん・・」
反り返った、彼のものが、あたしの入り口を摩擦する。
めくれるような、灼熱感があり、心地よかった。
睾丸がクッションのようにお尻に挟まる。
少し動きを止めて、彼が、
「上がって、ベッドで楽しもうか」
「うん」
あたしたちは、よろけながら結合を解き、湯船から立ち上がった。
彼のペニスは、やや下を向いていた。
あたしは、陰部から水が漏れるように流れるのを内股に感じた。
胎内に水が入ってしまったらしい。

ほてった体をエアコンで冷やしながら、あたしたちは冷蔵庫からビールを出して乾杯した。
この人といるとなごむ。
父を祥雄に重ねていたあたし。
女の子は、そういうものなのかもしれない。
そして急に、父に嘘をついて来たことを後悔した。

あたしは、缶ビールをテーブルに置いて、祥雄にしなだれかかった。
「おいおい・・こぼれるよ」
「さちおさん、抱いて」
「なんだよ。そんなことはいつも言わないのに」
「抱いて!」
「抱いてやる」
あたしは真剣だった。
今日は、避妊してほしくなかった。
絶対、中に欲しかった。
愛が欲しかった。

祥雄はあたしの言わんとする事を理解したらしい。
口が激しく吸われ、こねくり回された。
我慢できないという感じで、前戯もなく太いものが挿入された。
「ゆきこ・・ゆきこ!」
あたしの名を呼びながら、壊れたように腰を振る彼。
両足は曲げられ、真上から突きこまれ、胃まで届きそうなぐらい奥を攻められた。
彼より小さなあたしの体は、もみくちゃにされ、いいようにあしらわれた。
裏返され、後ろから恥ずかしい姿で貫かれ、突き殺されるんじゃないかと思うような激しさで揺さぶられた。
「もう、やめて・・・」
「ゆきこ!」
「いや、こわい・・・」
「中に、中に・・出すよ」
「い、いいけど・・・」
あたしも浮き上がるような快感に体がしびれた。
うあああっ・・
彼が硬直して、あたしの中が膨らんだように感じた。
「ゆっ・・ゆきこぉ」
あたしは、彼の下でつぶされてしまった。
何分経ったかわからないけれど、背中の重みが取れ、肩越しに後ろを見ると、彼が残った缶ビールを傾けていた。
あたしも起き上がった。
「ゆきこ、中に出しちゃった」
一言、そう言って微笑んだ。
あたしは彼の背中によりそって、体を預けた。
「ありがと」

あくる日の朝、また、彼に貫かれた。
そして、出された。
もう、どうなってもいい。
この人についていくと決めたんだもの。
あたしは、幸福感で満たされて、夢心地だった。

昨日とは打って変わって、二日目のディズニーランドへは開園と同時に入れたので余裕だった。
ショッピングも楽しんで、「写ルンです」で写真を撮って、ゴキゲンな一日を過ごした。
帰りの新幹線では、彼の肩にもたれて寝入って、気がつけば京都駅だった。
おみやげをたくさん持って、家路についたあたしの足は疲れていても軽やかだった。

1993年夏・・・
妊娠の兆候を彼に告げた。
そして、突然の別れの電話。
あたしは、わけが分からなかった。
あんなに、一緒にいようって言ってくれてたのに。
祥雄は、「とにかく別れよう」の一点張りで、会ってもくれなかった。
電話は留守電になって、もはや音信不通だった。
彼のマンションに押しかけようとしたけれど、なんか卑屈な感じがして、できなかった。
「あの女だ」
あたしは直感した。
彼は、二股をかけていたんだ。
児童文学の同好会で、彼に親しく話しかけていた年上の人・・・
よこやまなおこ・・・
確か、そんな名前で挿絵を書いている人だった。
どうも前から知り合いだったらしく、妙に、彼に馴れ馴れしかった。

そう思うと悔しいやら、情けないやら。
このお腹の子はどうしたらいい?
まだ、事の重大さを認識していないあたしは、考えをまとめることができなかった。
「やっぱり、考えなおしてもらおう」
あたしは、電話をかけ続けた。
何度目かの夜、彼が電話に出てくれた。
「どう?そっちは」
「もう、電話してこないでくれ」
「切らないで!聞いて」
「なんだよ」
「考えなおして。お願い」
「できないんだよ。結婚」
「あの人なんでしょ?」
「何のこと?」
「あの人、横山さんに別れろって言われたんでしょ?」
「ちがうよ」
「うそ」
「・・・そうだよ」
「やっぱり」
「あなたの赤ちゃん、お腹にいるのよ。あたしのほうが優先権があるのよ」
あたしは、こんなことでも言わない限りこの場を収められないと必死だった。
「わかってる。でも・・・」
何を怖がっているんだろう。この人は?
押し問答が続いた。
あたしは疲れ果ててしまった。
もういいや・・・心のどこかでそんな囁きが聞こえた気がした。
あたしは愛されていないんだ。
もう、嫌われてしまったんだ。
「わかったわ。祥雄さん」
「え?」
「別れましょう。もう、会わない。けど、この子は産みます。心配しないで、あなたを責めたりしないから。お二人の邪魔はしないから・・・」
あたしは、泣くのをこらえて、そういうのが精一杯だった。
「ゆきこ・・・」
「じゃ、さよなら」
「あ、待って」
でもあたしは受話器を置いた。
その後、嵐のように涙が溢れ、布団に突っ伏して泣いた。

(おしまい)

このお話は、あたしの旦那から聞いたものに脚色してみました。
そう、あたしは、鬼のようなことをしてしまったの。
由紀子さんから、旦那を奪った女。
それが、「なおぼん」こと、横山尚子です。

由紀子さんは、結局、お子さんをどうしたのか?
あたしは知らない。
産んだのかもしれない。
妊娠はしていなかったのかもしれない。
学校の先生と結婚されたということまでは、旦那の口から聞いているけれど。
もう、何十年も昔の話です。
旦那は、もう、頭を障害して、ほとんど覚えちゃいないみたいだけど。

こういうことを平気で書き、平気でする女はいっぱいいますよ。
あなたのそばにもね。
だから、女を甘く見ちゃいけないってこと。
女は、ぜんぜん弱者じゃないですよ。
まったく。
弱者ぶるのがウマイので、男は、まんまとダマされるんですよ。
男女同権なんて、本気でそうなったら、男は食われちまいますぜ。