「ああん、俊孝(としたか)くぅん」
「義姉(ねえ)さん・・・」
妹の旦那とホテルで逢瀬を交わすようになってもう三ヶ月くらいだろうか・・・
あたしは、俊孝に求められるまま、妹の聡子(さとこ)の目を盗んでこうやって不倫を続けていた。
聡子はキャリアウーマンというのだろうか、家庭よりも仕事の女で、いつも出張で東京と京都を往復している。
だから、彼らには子供は不要だった。
しかし、地元の中堅仏具メーカーに勤める俊孝にとってはたまったものではない。
新婚時代の一年ほどは甘い生活もあったようだが、もう三年も経つと、不満の方が募ってくるようだった。
あたしは、京都で大学の講師をしながら、右京区の実家で認知症の母親の面倒を見ていた。
聡子たちの新居は伏見区のマンションだった。
近いこともあって、聡子が不在の折は彼に、あたしたちの実家で夕飯などをごちそうすることも何度かあった。
母親が健常だったときから、俊孝はよくあたしたちのところに出入りしていた。
聡子も仕事が忙しいから、あまり家庭的な料理ができないらしく、あたしたち母娘の「おばんざい」を楽しみしていたふしがあった。

最初は、俊孝が酔ってあたしを誘ったのが始まりだった。
そのころは、母も発病して、あたしも疲弊していた。
結婚もせず、このまま家刀自(いえとじ)として女の喜びも知らずに死んでしまうのかと思うと、やるせないやら、妹たちがうらやましいやら・・・そういう気持ちで悶々と暮らしていた心の隙間もあった。
俊孝とて、早くも倦怠期を迎えており、聡子と「ご無沙汰」だったらしい。
一方で、あたしは、男も知らず、おぼこのまま四十を迎えてしまっていた。
だから羞恥の極みで、いまさらの俊孝の誘いを、頑(かたく)なに拒んだものだった。
第一、妹に申し訳なかったし、そんな破廉恥なことをするのは、堅いあたしには到底考えられなかったのだ。

しかし・・・
執拗な俊孝の求めにほだされ、相手がよく知っている男性だったし、かくいうあたしも「経験」してみたかった。
妹には申し訳なく思いつつも、「少しくらい」という浅はかな考えがなかったとは言えない。

それがどうだろう。
一度男を知った体は、何度も男の求めに応じた。
いや、こちらから求めたいくらいだった。
さすがに、それは今もできないでいる。
俊孝が、あまりにも屈託がなかったからかもしれなかった。
そして、彼をほったらかしにしている聡子を、あたしはひどいと思い、彼をかわいそうにも思ったのだった。

ぺちょ、ぺちゃ・・・
あたしは、俊孝に恥ずかしい部分を執拗に舐められ、恍惚の表情を浮かべていたに違いない。
「いや・・・そこは・・・」
「いい色だ、義姉さん。聡子なんか舐めさせてもくれないんだぜ」
「そ、そうなの?」
「もう、入れていいかい?」
「入れてっ。俊孝くんの太いの・・・」
そんないやらしい言葉を吐くようになったクソ真面目な女。
あたしは、客観的に自分がどうしようもない毒婦に思えた。
普段は縁のあるメガネを掛けて、女子大生に向かってカビの生えた古文書の解説をしているのに、今はどうだ?
男に股を開き、挿入を希(こいねが)っているではないか。

俊孝が高まりをあたしに押し付けようとしたとき・・・
ブルルル・・・ベッドサイドに置いたケータイが震えた。
「だれ?いまごろ・・・」
あたしは、不機嫌な面持ちでケータイに手を伸ばした。
俊孝は意に介せず、ペニスでクリをこすりながら、刺激を与えてくる。
「聡子からだわ」
「え?」
凍りついたように、俊孝が止まる。
「もしもし?」
「あ、お姉ちゃん?あたし。今東京なの」
「あ、そうなの。なぁに?」
「これから新幹線で帰るから、おみやげもってそっちに行くわ」
「え?来るの」
「お母さん、元気にしてる?」
「ま、まあね。施設に行ってる。きゃん」
いきなり、挿入が企てられた。
「どうしたの?お姉ちゃん」
「ちょ、ちょっと、スカートがひっかかったの」
あたしはとっさに言い訳をした。
俊孝が笑みを浮かべて腰を振る。
あたしは、声を殺すので必死だった。
「何してるのよ。じゃ、十時頃には京都駅に着くから」
「はいはい」
あたしはケータイを切った。
「もう、やめてよぉ。声、でちゃうじゃないの。来るんだって。あの子」
「明日まで出張と聞いてたけどね」
俊孝が深い突きをあたしに与えながら平然と言った。
彼の口元はべとべとに濡れて光っていた。
また、ケータイが鳴る。
今度は俊孝のスマホだった。
「もしもし」彼が出る。
ひとしきりぼそぼそと話し込む俊孝だった。
「なんだよ・・・今は忙しいんだ」
とかなんとか言っている。
あたしは、噴き出しそうになった。
聡子にとっては、想像だにしない、電話口の景色だったろうから。
実の姉と自分の夫がベッドを共にしている図なのだ。
「じゃ・・・」
スマホが切られた。
「なんて?」
「義姉さんに言ったことと同じこと」
「あの子にとっちゃ、別々に電話してることになるんだよね。くわばら、くわばら」
「ああ、今からだと、三時間はかからないよな」
「そうね」
「帰るか・・・」
「いいじゃない。いっしょに実家に来れば」
「バレないかな」
「わかんないって」
あたしは彼に抱きついてキスを浴びせながら、胎内に差し込まれている異物を感じた。

あたしたちは共犯者だった。
(続くかも)