三億八千万円あまりの現金強奪
白昼堂々と…
新聞紙面がにぎわっていた。

琴平会の蒲生会頭によれば、ここ数年、福岡を中心に、韓国人マフィアと日本の暴力団が金塊密輸に余念がないという。
「あの空港でしょっ引かれた韓国人な、あれはシロやで」
「なんで、そう思うんです?」
あたしは、事務所のテレビを観ながら聞いた。
「ああいった、大金を所持している韓国人は毎日、ざらにおる」
「そんなに金塊商売は多いんですか」
「福岡はな、みかじめ料を民間と警察で締め出しよったから、シノギがあらへんのや。ヤクかて、トウシロがネットで販売しよるし、金塊くらいしかカネにならへん」
会頭が、よっこらしょと回転いすから立ち上がる。
「テレビでも言うとったように、消費税が八パーに上がったころから、金の密輸は増えとる」
「ああ、そんで密輸して税関素通りさせて、八パー分をいただくていう寸法ですね」
「100万で、八万や。ぼろいやろ?」
「ぼろいですね。金塊やったら少量でもシノゲますもん」
「そやから、密輸が後を絶たん。それに北の資金源にもなっとる」
「万景峰号が日本に来んようになって久しいです」
「あれは、今度、ウラジオに行くらしいで。プーチンと北が急接近や」
「おもろなりますな」
「そや。なおぼん、金正恩のもっとも大切にしてるもんを知っとるけ?」
「核爆弾ちゃいますの」
「あれはパフォーマンスや。それよりも、ニセ札づくりや」
「ゴート札でっか?今の時代に」
「あほ。アニメの観すぎじゃ。北ほど偽札に手ぇ染めてる国はないで」
「ほうですかぁ?」
「銀行取引をアメリカに止められて、窮してるけど、偽札でしのいどる」
「信じられませんね」
「まぁ、日本の札は、やつらもよう偽造でけんみたいやな。だいたいはドルとかユーロや」
「へぇ」
「ほんで金塊やな。金はどこでも力を持つさかいな」
「しかし、すごい量の金塊を持ち込んでますね。100キロやて」
「そんなん、福岡ではあたりまえや。インチョンからなんぼでも入ってくる。プサンからも船で来る」
「会頭も、いっちょ噛んではる」
「言えるかい、そんなもん」
と、窓の外に視線を移す会頭だった。

最近はハジキでさえ、もうからんようになった。
アマゾンでハジキが買えるようになったらしい。
弾は手に入らんけど。
弾だけは、このような暴力団経由になっている。

そんでもテロ防止を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正法案は、一般人を対象とするかしないかで議論がかみ合わない。
暴力団などは無条件に対象になるだろうが、市民団体の反対運動なども「テロ行為」として準備段階から処罰対象になるのかどうかが焦点になっている。
あたしは、しかし、一般人も対象にしないとテロ行為は防止できないと思っている。
テロ行為を企図するのは一般人だからだ。
ゆえに、こういった法案は結局は市民を監視する法律となる危険がある。
従前の組織犯罪防止法で網羅できるのなら改正の必要はないと思うのだが。

政府の意図は、カルト集団だけにとどまるものではない。
おそらく左翼活動、反原発活動、沖縄基地反対活動を視野に入れていると、あたしは考えている。
要は、お上にたてつく活動や市民はすべてお縄にしたいのだ。

国際的に共同してテロ行為を未然に防いで、国民とその財産を守るというのは、なるほど立派な志だ。
そこに見え隠れする監視社会が、あたしには我慢ならない。
それに法務大臣の、あのあほらしい、たよりない答弁を見るにつけ、この国はまだまだ未熟だと思うのである。

蒲生会頭が、「なおぼん、茶ぁ飲みにいこか」と誘ってくれた。
このビルの一階のサテン(喫茶店)にあたしらは下りて行った。