雄介はあたしの中に放った後、すぐに離れてしまった。
あたしはノロノロと半身を起こして、枕元のティッシュケースに手を伸ばす。
ジワリと、胎内から生暖かいものが染み出し、さっさとしないとシーツを汚しかねなかった。
軽く始末して、ティッシュの塊をベッドサイドの屑籠に放り込むと布団をひっかぶった。
雄介も隣でおとなしく、仰向けに天井を見つめていた。
ばつの悪そうな少年のような表情を浮かべて…

しばらく沈黙があり、あたしも天井のホタルブクロのような電灯の笠を眺めていた。
「あんたの、思っていることを当ててみましょうか?」
雄介が一瞬、固まったように見えた。
「え?」
「こんな、おばはんと、なんでやっちまったんだろう…そう思ってるんでしょ?」
「いや、そんなこと思っていないって。なおぼんが好きだし、ぜんぜんそんなこと」
えらく慌てて否定するところをみると図星なんだろう。
化粧も取れて、シワもあらわな五十半ばの女と同衾しているのだ。
母親ほどとは言わないにしても、あたしは、彼からすればかなりの年増(としま)女だ。

あたしにとって、そんな「賢者モード」の男の脳内など、想像するに難くなかった。

雄介とは出会い系で知り合った。
見るからに暗い感じの青年で、それでも飲食関係のフロア係をしていると言っていた。
これまでつきあった女性は少なく、その乏しい女性経験も散々なものだったらしい。
確かにルックスは、良い方ではない。
どっちかと言えば「ブ男」に類する。
魚類のような目をし、頬はあばただらけで、髪も癖のある剛毛だった。
だからか、卑屈で、おまけに若いのにだらしない体をしていた。

とはいえ、セックスは悪くなかった。
クンニもしてくれるし、自分勝手な激しいピストンはしないでくれた。
ペニスはフェラのしやすい太さだった。
ただ、毛深いので、しゃぶるとくしゃみが出そうになる。
何度か「剃(そ)ってきてよ」と言ったけど、一向に始末する様子はなかった。

彼とは、今日で八度目の逢瀬となった。
いつも彼から誘われて、彼の車でここに来る。
あたしが、お金を要求しないから、ホテル代だけで性処理ができる都合のいい女なのだろう。
まったく、いい気なものだわ。
こんなおばさんだって、もっと愛されたいのに…
どこか、不満の残る、いつもの出会いだった。

「セフレ」と言う立場は、男にとって「生身のオナホ」なのではなかろうか?
あたしは心を満たされたいのに、ただ、嵐のように犯され、置いて行かれる。
いつもそうだ。

そう、いつも…

まぶたが重くなってきた。
雄介は小さないびきをかいている。

少し寝よう。

このホテルが自宅のように思えるほど、何度も通った…
「サンタモニカ」の701号室。