あたしは、久しぶりにJR京都駅のラウンジで蒲生譲二とグラスを傾けていた。
「なんや、おりいって相談って」
「おととい、舞鶴でブツを受け取った帰りにね、敦賀をまわってきたんですよ」
「ほう」
「そこで旧友から、浩二のことを聞いてね」
「いとこの男か?おまえの想い人の」
「想い人やなんて…その友人は浩二と東京の大学で同級やったらしいんです」
「奇遇やな」
「ほんと、そうですわ。そこで、ずっと前に話してた在日の女性のこと覚えてます?」
「金沢とかいう女のことやろ?あいつの親父は総連の幹部や」
「そうです、そうです。その子が浩二と大学で会ってたらしいんです」
「ややこし、話やな」
「あたしもにわかには信じられませんでしたけど、写真見せられて、確信しました」
「浩二君が金沢某に連れ去られたってわけかいな」
「そう思ってるんですけど」
「しかし古い話やろ?おまえらが大学生の時て」
「そうです」
話が途切れた。
あたしは山﨑のロックを一口すすった。
ころんと氷が鳴る。
グラスは静まり返って、重い雰囲気が漂った。
「尚子、そこまでわかってんねんやったら、わしが一肌脱いだろ」
おもむろに蒲生が口を開いた。
そして、
「総連の金達吉(キム・ダルキル)がお前のダチ公の親父や」
「その名前は知ってます」
「奴は、ひと頃、北鮮に帰っとった」
「ええ、彼女の邸宅は永らく更地になってました。今は賃貸マンションが建ってます」
「そやろな。つい最近、また大阪に現れたと聞いてる」
「ほんまですか」
「柏木が見たと言うとった」
「マーシャルが…」
「ああ。わしらもな、朝銀に口座を開設して、あの国に送金したりしてたんやけど、バブルがはじけて朝銀大阪も破たんしたやろ、債権放棄させられて、大損こいたわい。総連も屋台骨がぼろぼろになったんで、金達吉とその娘、一族郎党が北鮮に帰っとったんやろ。どうせ」
苦虫を嚙み潰したような顔で蒲生譲二が笑った。
「とりあえず、柏木に探らせる。尚子は家で普通にしとけ」
「はい」