今年のイブは火曜日だった。
その前の週の金曜日が終業式だったのでおれらはクリスマスを満喫できるのだった。
山本純子と二人で朝から淀水橋に出て、「エル・グランデ」でお店を見て回り、ケンタッキーで昼を食って、ガード下のゲーセンをぶらぶらして「クレーンゲーム」や「エアホッケー」を楽しんだ。
夕方、クリスマスらしく「不二家」でケーキセットを食べた。
帰りの電車の中で、純子が「楽しかった。ありがと」と小さく言ってくれた。
「ああ、おれ、女の子と遊ぶの初めてで、じゅんちゃんにはつまらんかったのと違うかなって思ってた」
おれは早口でそう言った。
「ううん。ほんと楽しかったもん。また行こうね。そうだお正月、初詣に行こうよ」
「そりゃ、いいや」
吊革にぶらさがって、懸垂するようにして、おれは応えた。
「ふふっ」
「なんや」
「だって子供みたい」
「へへ」

車窓は真っ暗で二人の姿がばっちり映っている。
なかなかおれらはお似合いのカップルにみえた。

九時前に多治比駅に着いた。
「送っていくよ」
「ありがと」
クリスマスイブなんで、商店街は賑わっていた。
こんなところを二人で歩いていたら、学校のやつらにひやかされそうだ。
おれらは路地に折れて、昔「赤線」と呼ばれていた方に歩いて行った。
そのあたりのスナックには、母さんがいるかもしれないし、いないかもしれなかった。
見覚えのある暗い道を二人、肩を並べて歩いていく。
人はまばらで、スナックからはカラオケの音が漏れている。
赤ちょうちんに灯がともり、木枯らしに揺れている。
「寒いな」
「うん」
純子の家は、この先の古川町にあった。
連れ込み旅館が並ぶ通りに来てしまった。
「やばいな、こんなところ」
「わざと?」
いたずらっぽい顔で純子がおれをみる。
「入ってみるかい?」
「初デートで誘うの?」
「冗談だよ」
「いいわよ」
驚くべきことを、純子は口にした。
「おいおい、じゅんちゃん」
「いいの。覚悟してたから…」
そう言って下を向いた。
おれは、どう答えていいかとまどった。
震える肩を抱いて、おれは目の前の「ベラミ」と書かれた電飾の看板の入り口に周りを見ながら彼女を引き込んでしまった。
「やっちまった…」
これからどうすんだ?こんなところ、入ったことないし…
とにかく、おれは急展開にどぎまぎしながら、一方で落ち着こうと懸命だった。
暗い店内に、窓口があり「パネルの明かりのついているお部屋の番号を窓口でお伝えください」と手書きの板が立てかけてあった。
映画の券売のような窓口から明かりが漏れていて、そこからはこちらは見えないようになっていた。
純子はじっとうつむいている。おれはパネルを見て、
「202号室…」
蚊の鳴くような声で部屋番号を告げた。
なかから女性の声で、「鍵をどうぞ、お帰りの際に料金をいただきます。ごゆっくり」と言われた。
アクリルの角棒に202と刻されたものに鎖がとおしてあり鍵がついている。
普通の旅館でよくあるカギだった。
「行こうか」
純子は、うつむいてうなずくだけだった。

二階に階段を上がっていき、202と書かれた部屋に入った。
狭い部屋にベッドがすき間なく置かれている。
少し開いたスペースに二人が掛けられるイスとテーブルのセットがあった。
そしてクローゼット、トイレ、洗面所、バスルームがドアを開けたままになっている。
おれは、純子をベッドに座らせ、おれもその隣に座った。
「いいのか?」
「いまさら」そう言ってにっこり笑ってくれた。
おれは、唇を寄せてキスを迫った。
純子は目をつむって、半開きの唇をおれに許したのだった。
唇を重ねるだけのキス…
「ふう…小縣君は、初めてなの?」
「そ、そうや。ジュンちゃんはあるのかよ」
「ないよ」
「こんなところで、うまくできないかもしれんけど」
「あたし、ドキドキしてる…」
そういって、自分で自分をコートの上から抱くようにして震えている。
われながら大胆な行動に出て、後悔しているのだろう。
このまま何もせずに帰した方がいいのだろうか?
おれは逡巡した。