あたしはポン・ヌフ橋を渡ってサンジェルマン地区に向かっていた。
この橋は、セーヌ川のノートルダム寺院のある中州を通って対岸に架かる大橋だった。
占領下でなければパリジャンのカップルが行き交う、いかにも楽しげな名所なのに、今はどうだ?
灰色のドイツ兵の軍服ばかりだ。
彼らの乗った側車(サイドカー)付きオートバイが傍若無人に走り回る。
ケッテンクラートという無限軌道を後輪に備えたオートバイもガラガラ走って、やかましいったらありゃしない。
「ハイル・ヒトラー」と鸚鵡(おうむ)のように繰り返す新兵たち、「SS(ナチス親衛隊)」の襟章、「ハーケンクロイツ」…
「親衛隊」の男たちはみな一様な、澄ました美男だった。
なんでも入隊の規定が厳しいらしく、家柄、血筋はもとより顔かたちや身長など厳しい審査を通らなければなれないらしい。
それに…結婚も自由にできず、選ばれた女があてがわれ、選民されるという。
少しでもユダヤの血が混じっていればアウトなのだそうだ。
あたしは反吐が出そうだった。
ドイツ兵の汗と精液にまみれた腐臭で、胸が悪くなりそうだった。
パリジャンも、たいそう体臭がきついのに、ドイツ兵のものは鼻についた。

ヴィシーのペタン首相は、ドイツの傀儡(かいらい)政権になり下がっている。
嘆かわしいとはジャン・ルブランの言葉だった。
あたしは相変わらずフランス空軍に所属し、隔日で、相棒のモリエール少尉と組んで国産の旧式化してしまった双発戦闘機「ポテ631」をヴィシーまで空輸していた。
この鈍重な戦闘機はほとんど日中は使い物にならず、夜間戦闘などの隠密行動に使われ、今後はアフリカ戦線に投入されることになっている。
フランス空軍にはパイロットが不足していた。
だから、あたしのような女の民間人までも徴用されるのである。
あたしは、飛行機で世界一周をしてみたかった。
リンドバーグのような快挙をあたし自身の手でやってみたかった。
「パリからニューヨークを目指すのよ…」
それももう叶わない。
ルフト・バッフェ(ドイツ空軍)にもハンナ・ライチュという女性パイロットがいると聞いた。
すばらしい腕の持ち主で、敵ながら会ってみたいと思っているのだが…
そして、太平洋で消息を絶った、アメリカのアメリア・イアハートという美貌のパイロットのこともあたしは気にしていた。

こんなところを一人でうろうろしていると、盛りのついた「ヒトラー・ユーゲント」たちにに犯されるかもしれないので、早くサンジェルマン地区のアジトに行かねばならなかった。
遠回りして行くのは、つけられないようにだった。
リュクサンブール公園にわざわざ回ってから西のサンジェルマンに向かう。
この公園にもドイツ軍が駐留している。

最初は、あたしから彼を誘ったのだけれど、ジャンとは、彼のアパルトマンでランデブーするのが常になった。
パリが陥落し、逃げた大統領アルベール・ルブランとファミリーネームが同じの彼は、どこか大統領に似ていた。

男の信頼を勝ち取るには、体を開くことが近道だったからだ。
相棒のモリエール少尉とも、何度か寝た。
空輸中の飛行機の中は密室で、彼に操縦させながら、お口でしてあげることもあった。
「ポテ63.11」という偵察型は三人乗りで、機首銃座(偵察席)から機長席に首を出すことができたのだ。
一度、夢中になって高度が下がりすぎて、失速寸前になったのには肝を冷やした。
それ以来、モリエールは求めなくなったが。

ジャンは部屋にいた。
モールスの暗号を解読しているようだった。
ドイツ軍の通信機をせしめてきて、電気にも詳しいジャンがいろいろいじっているのだ。
「何かわかって?」
「ドゴール将軍が動き出したぜ」
「ペタン首相と戦うのかしら」
「いや、まだだ。軍を掌握しなければクーデターは無理だ」
あたしはジャンの背中からかぶさって、髭のざらつくほほを手で撫でる。
「なんだよ。欲しいのかよ」
「ほしい…」
あたしたちは壊れかけのベッドに倒れ込んで、激しいくちづけを交わした。
シーツに沁みついたジャンの体臭が心地よい安心感を与える。
「ああん…」
ジャンがあたしの薄物をはぎ取り、乳房をまさぐる。
「イヴォンヌ…君は、コケットだ」
「なぁに、それ」
「小悪魔だ」
「ばか。はやくあなたの剣をお抜きなさいな」
「よし、刺しぬいてやる」
せわしなくジャンがズボンを脱いで、硬そうに屹立したペニスをさらした。
昼間に見るそれは、とても大きく見えた。
片手で蛇の首を絞めるように握り締め、あたしの方に向ける。
あたしはじっと見ながら、開脚して誘う。
「君のアジトは男を誘い込み、絞め殺す」
「絞め殺してあげるわ。どうぞ来て」
あたしのプッシーは「いい」らしい。
モリエール少尉も、何度も間に合わず中で漏らしてしまったくらいだった。
あたしはすぐにビデを使ったからか、妊娠は免れている。
「あやっ!」
ずぶりと一気に差し込まれ、あたしは悲鳴を上げてのけぞった。
「どうだい?全部入っちまったぜ」
「いい、すごく」
そういうのが精いっぱいだった。
乳首が舐められ、首筋が舐められ、もうあたしはショコラのようにとろけてしまっていた。
「君は、ほかに男がいるんだろ?」
「い、いないわ」
「うそつけ。こんなに淫乱な女が、俺だけで満足できるわけがない」
そういって激しく突きこんでくる。
「あ、ああ、いないって言ってるでしょっ」
「うそだ、うそだ」
がんがんと子宮を突き上げられて、あたしは気を失いそうになる。
ジャンの顔が少尉と重なる。
どっちに犯されているのか朦朧としてきていた。
「おお、締まる、すごいぞ」
「ああん、あん、あん」
あたしは裏返され、背後から貫かれた。
これは少尉も好きな体位だった。
深い挿入感で、逝かされた。
「こりゃ、いかん」
ずぽっと一気に抜き去られて、背中に熱いほとばしりを感じた。
「あ、はあ、危なかったよ。もう少しで妊娠させてしまうところだった」
肩で息をしながら、ジャンが仰向けに倒れた。
あたしは突っ伏したまま、シーツの香りを嗅いでいた。