春一番が 掃除したてのサッシの窓に
ほこりのうずをおどらせてます

机 本箱 運び出された荷物のあとは
畳の色がそこだけ若いわ


(キャンディーズ『微笑がえし』阿木耀子 作詞)

キャンディーズのラストシングルを買った友人に頼んでカセットテープにダビングしてもらったものを、テレコでかけていた。

「ごめんな、お兄ちゃん」そう言って早苗が、すまなさそうにおれの部屋に入ってきた。
「もういいって。おれもあほやった」頭を掻きながら応え、部屋の片づけの続きをやっていた。
「ありがと。お部屋、きれいにしてくれて」「ああ、あんなもんでええかな」「十分」
しばらくあって、
「早苗もすごいな、阪大やて?」
「受けたら、通ってた」
「たまらんなぁ。できる子は」
「あ、キャンディーズ…お兄ちゃん、好きなん?」「まぁな」「誰が好き?」「蘭ちゃんか…な」「やっぱしなぁ」

「この『微笑がえし』って、あたしも好き」
「そうか、ええやろ?この時期にぴったしや」
「でも解散しはんねんな」
「そうやねんがな。もう、たまらんわ」
「お兄ちゃんは『たまらんわ』が口癖なんやね」「ほうか」
キャンディーズが解散すると決まり、『微笑がえし』がリリースされたのだった。
「早苗は、いつから大学に行くんや?」
「あさってから。オリエンテーションがあるの」
「おれもあさって、四回に上がれるかどうか決まるねん」
「どういうこと?」
「単位が足らんのや。ちびっとだけ」
「落第すんの?」
「やばいねん。正直」「あちゃー」
早苗が肩をすくめて、あきれた顔をした。
「さなえちゃん!お風呂入り」と、オカンの声が階下から響く。
「はぁい」
大きな返事をして、早苗が「じゃ」といって新しい自分の部屋に入っていった。
たぶん、着替えを取りに行ったのだろう。
「さぁてと、保科せんせ、単位をなんとかしてくれんかねぇ」
『金融理論』の保科和人助教授の単位がどうしてもいるのだ。
『外為法』と『経済学原論』の単位は提出物の出し直しでなんとか二単位ずつもらえることになった。あとの二単位が保科先生の講義なのだった。

カセットテープの片面が終わり、オートリバースがかかった。
(つづく)