造幣局の通り抜けにはまだ早いが、大阪城公園の桜は盛りを過ぎようとしていた。
それでも満開には違いなく、人出もそうとうなものだった。
「滋賀は今が盛りかな」
「海津大崎はそろそろ見ごろやと思うわ」
海津大崎とはびわ湖の北端の桜の名所だそうだ。

「そこの桜をバックに写真を撮ったろ」
「うん」
おれたちは、どこから見てもお似合いのカップルだった。
いとこ同士なのだから、遠慮はいらないのかもしれない。
おれは早苗を好もしく思い始めていた。
早苗の持ってきたEEカメラ(バカチョンカメラ)のファインダー越しに見る早苗はかわいかった。
「はい、チーズ」
ぱしゃ
「もう一枚」
「次お兄ちゃん」
「おれは、いいよ」
「いいやん。あの、すみません、シャッター押してもらえませんか?」
早苗は通りすがりのオジサンにくったくなく声をかける。
おれは早苗と手を組んで、桜の下に立つ。
「はい、いいですかぁ。いきますよぉ。チーズ」
パシャ
「これでいいのかな。うまくとれてなかったらごめんやで」
そう言って、オジサンは去っていった。

「お兄ちゃん、ソフト食べような」
「ああ」
露店の茶店でソフトクリームの看板が出ており、三人ほどの行列ができている。
今日は天気がいいので、こういった冷たいものも売れるのだ。
ベンチに座って、ソフトクリームをなめなめ、すっかりデートを満喫しているおれたちだった。
「さなえさぁ、カレシとかおらんの?」
「いいひんよぉ。お勉強ばっかしやったから。高校時代」
「ほうかぁ、阪大やもんな」
「言わんといてよ。あたしかって、普通の女の子なんやから」
キャンディーズが同じことを言って解散したのは、つい先だってのことだった。

「大阪城、登ろうで」
「うん。行く」
タコイシの前を通って、なんとか櫓(やぐら)を過ぎて、石段を登っていくと銀明水とかいう井戸を見て、切符を買い城の中に入る。
「博物館になってんやね」
「そうや。このお城は鉄筋コンクリート製なんやで」
「なんか、幻滅ぅ」
「ほらエレベータもあるやろ」
「太閤さんもこれに乗って?」「んなわけないやろ」
あほなことを言いながらエレベーターを待つ。
天守閣からの眺めは格別だった。
大阪にはここより高い建物がない。通天閣がどれほどの高さだったか知らないが…
「わぁ、海が見えるよ。お兄ちゃん」
「かすんでるけど、よう見えるなぁ」
その奥には六甲の峰が青く見えていた。
南の方にも目を向けると通天閣がそびえている。
そして生駒山のテレビ塔群。
「なぁ、お兄ちゃんは、彼女さんいいひんの?」
春風に髪をほつれさせながら、おれを見上げる早苗。
「いてないよ。いままでもおらんかった」
おれは正直に答えた。
「いとこ同士って、あかんのかなぁ」
「なにがあかんねん」
「恋人になったら、あかんのかなって」
「…」
おれは早苗を見つめた。どこか寂しそうだった。
おれは早苗の肩を抱いた。
周りには人はまばらだった。
「あかんことあらへん。おれもお前が好きやった」
「ほんと?」
「ああ、ほんまや。でも家では内緒にしとこな。知れたらおれらは一緒にはおられん」
「そやね」

おれたちは共通の秘密を持った。
太閤さんに見られているような気がした。
(つづく)