おれの部屋の鍵を預かっている美香は、世話女房のように、夕飯の支度をおれの部屋でして、洗濯までしてくれる。
そして、シャワーを浴びて、つながって…彼女は満足して帰っていくのだった。

その日も先に会社から帰った美香が、冷麺を作って待っていてくれた。
会社にはまったくバレていないと、おれも美香も思っている。
この半同棲生活がいつまで続くのだろう?
それよりも、美香の父親、田中龍兵氏にいつかは会わねばならないだろう。
そのことのほうが憂うつだった。
美香は、自分の親におれのことを話していないのだろうか?いつもその話題になると、美香ははぐらかしてしまって、沙汰止みになってしまう。
しかし、今日は違った。
「ケイタくん、できちゃったみたい」
おずおずと美香がおれに告げた。
その意味が分からないほど、おれだって朴念仁(ぼくねんじん)ではない。
「やっぱりな…もう二か月近くなるもんな。おれたち」
「どうしよう」
「どうしようって、結婚しようよ。ご両親に会わせてくれよ」
おれは、腹を決めてそう願い出た。
「待って。それは…」
なんで、ここにきて躊躇するのだ?おれには理解できかねた。

美香の話では、先月から生理がないことに気付いていたが、今月、出血があって生理が始まったと思って安心したらしい。
しかし、どうもいつもと違うことに気づいたというのだ。
母親に言って、婦人科で診てもらったら、妊娠による不正出血だと診断されたという。
5、6週目の妊娠初期にはよくみられるもので、放っておくと流産しかねないとも言われたらしい。
「胞状奇胎(ほうじょうきたい)かもしれないって」
「なんだ?それ」
初めて聞く病名だった。
「赤ちゃんが育ってないの」
「もうわかってんのか?」
「エコー検査で、その疑いがあるって先生がおっしゃるの」
そうか、それで父親に話したくなかったのだ。
どのみち、父親にわかってしまうことなのに…

後で調べたが、胞状奇胎は異常妊娠の例であり、母体に何らかの不具合があって、受精卵が子宮内に着床できなかったか、できても子宮内絨毛の異常で死滅してしまう病気なのだった。
その形状から「ブドウっ子」ともいわれ、絨毛細胞が異常を来(きた)した、さながらブドウの房のようなゼリー状の球体で子宮内が一杯になってしまうらしい。
想像するだけで、身の毛がよだつような病気である。

この病気はセックスしないと発生しないので、おれとの関係を、美香の両親に隠しおおせるものではないということははっきりしていた。

おれは、内心、胞状奇胎であってほしいと願った。
流れてくれるものなら、そのほうがいい。
ヤクザの娘を孕まして、責任を取らされるよりはずっとましなような気がした。

美香は、母親の映美にはこのことを話し、いっしょに病院にも行ったという。
「おれのことを、お母さんに話したんだね」
「うん。母さんは、反対しなかったわ。そのうち紹介してねって言ったわ」
おれは、一安心した。

そして数日後、いよいよ胞状奇胎の確度が増し、手術して取り出すということになった。
母親が機転を利かして、夫の龍平氏には、美香が婦人病の一種で、このままでは妊娠できなくなる病気なのだと伝えて、手術に臨むことにしたそうだ。
「医学の知識などぜんぜんないパパは頭から信じ込んでしまったわ」と、美香がおれに安心させようとしてくれた。
とはいえ全身麻酔の手術である。
おれは、美香のことが心配だったが、見舞いには来るなとくぎを刺され、病院の名前も教えてくれなかった。

会社には、盲腸の手術だとかいって、美香は二週間ほど病欠扱いになった。
真相をおれは知っていたが、誰にも言うまいと心に誓った。

その二週間は、もどかしかったが、礼子のマンションに行って慰めてもらった。
「へえ、胞状奇胎ねぇ。知ってるわよ。でもそれで不妊になるわけじゃないのよ」
「そうなの?」
「うん。あたしの友達もそれになった子がいてね、今では二人の子持ちだから」
礼子は、事も無げに教えてくれた。
「でもさ、けいちゃんは安心したんじゃない?」
「うん。まあ」
「あたしも妊娠させてよ。そろそろ」
「できちゃっても、大野さんの子かどうかわかんないじゃないか」
「そうね。でもあの人とは、先月は一度も会ってないの」
「どうだか」
「じゃ、コンドームしてする?」
「そうさせてもらうよ」
「つまんねーやつ」
そう言って礼子は抱き着いてきて、キスを浴びせて来た。
美香とはご無沙汰である。
オナニーもしていない。
だから、ギンギンに勃起していた。
「すっごぉい。反り返ってるじゃん」
「レイコの中に入りたいって」
「じゃ、ゴムしなさいよ。早くっ」
枕元のおしゃれな箱に入った避妊具をおれは取り出した。
ぴりっ…
おれには、少しきつめのコンドームだった。
「よしっと。上からいこうか?」
「うん」
正常位ではめようと向かい合った。
礼子のあそこは、もう、とろとろにしずくをしたたらせている。
「ちょっと舐めていい?」「どうぞ」
ぱっくりと広げられた女陰は、獣のような匂いがした。
ちゅる…
塩分と酸味のないまぜになった汁が口内に広がる。
「あふん」
甘い声が聞こえた。
クリトリスがすでに勃起して露わにになっている。
そのささみのような肉片をおれの唇で挟んで引っ張る。
「やぁん」
ぺちょ、ぺちょ
「くぅん」子犬のような鳴き声を発している。
「じゃ、もう入れようか」「来て!」

先を膣口に合わせ、ゆっくりと差し込んでいった。
美香とは違って、緩い感じがするが、しっかりとまとわりついてくる。
にゅむ、にゅむ…
その飲み下すような膣の動きがたまらない。
おれはぴったりと腰をおっつけて、鞘の中に刀身を全て収めた。
そして硬くしこった乳首を舐め舐め、一体となってベッドの上でくねる。
「ああん、けいちゃん、すごい」
「なにが?」
「あんたの、おちんぽ」
「そんなこと言うんだ」
「じゃあ、なんていうのよ」
「なんでもいいや。そんなこと」
「ちんぽ?ちんこ?」
「やめろよ」
おれは、ばかばかしくなって、礼子を制止した。
騎乗位が好きだというので、礼子を起こした。
「ほんと、硬いのね」
「若いからね」
「大野さんと張り合ってんの?」
「おれのほうがいいんだろ?」
「もちろんよ」
「でも、大野さんとやるときゃ、大野さんの方がいいって言ってんだろ?」
「そんなことない」
おれは、言いながら下から突き上げる。
礼子の締まった丸い尻が弾む。
コンドームがかなり脱げかかっているのが見えた。
「やばいな、取れちゃうよ」
「え?ゴムが外れそう?」
「うん。激しすぎんだよ。おれたち」
「そうかしら。みんなこれくらい動くでしょ」
「もう、取っちゃうよ。薬飲んでんだろ?」
「ふふふ、あれはウソ。低用量ピルっていうのは、お医者様にもらわないといけないの。そんな面倒なことしてないわ」
「ええっ?よく妊娠しなかったなぁ」
おれは、驚きを隠せなかった。礼子と交わった時のほとんどは、避妊していなかったからだ。
「たぶん、あたし四十一でしょう?今年。もう、生理も毎月ないのよ」
「へぇ。でもあることはあるんだろ?」
「まぁね」
全く妊娠の可能性がないわけではないのだ。
おれは、しかし、邪魔なコンドームを引っぺがして、ナマで礼子にぶち込んだ。
「あふっ」
「どうだい?ナマのほうがいいでしょ?」「わかんないわよ」「そんなもんかな」
美香の胞状奇胎の手術のことが頭をよぎった。
電話ではうまくいったらしいが、予後をを診て二度目の手術もあるそうだ。
屈曲位で深々と礼子に挑み、礼子の香しい女の体臭を胸いっぱいに吸い込んで、おれはたっぷりと精液を注ぎ込んだ。

「遠慮なく、仕込ませてもらったよ」
「ありがと。責任取ってよ」
「美香がいるんだ。それはできない」
すると礼子の表情が一瞬曇った。
「そうよね…ごめん」

秋も深まったころ、礼子から妊娠の兆候があったと知らされた。
「ほんとにおれの子かよ?」
「うん。間違いない」
「どうしよう」
「心配しないで。産まないから」
「堕ろすの?」
「それしかないでしょ」
電話は切られた。